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執務室に来て驚いたのは他の近臣たちである。 上皇が戸を三重に囲い、中に籠っておられるようなのだ。 決めなくてはならないことも多いのに、これでは何も始められない。 近臣たちは途方に暮れた。 そこにやって来たのが民部卿源俊明である。 俊明は皆が制止するのもきかず、戸を強引にこじ開けようとする。 近臣たちは慌てふためいた。日頃から気難しい上皇の機嫌を損ねないよう、必死な思いをしているのだ。 「世の重大ごとを決定するときに、この俊明がいるのに何故戸を開けないままにしようとしているのだ。とっとと開けろ!」 この小柄な老人のどこに一体そんな力が、と思われるような、恫喝にも似た叫び声。 その勢いに気押され、近臣たちは皆で力を合わせて戸をこじ開けた。 俊明は上皇の近くに寄り、わざと咳払いをした。 「誰だ。」 と上皇は問う。 「俊明でございます。」 「何事だ。」 「ご受禪のこと、いかがなされるおつもりです。もはや日も高くなっております。早々にご裁断のほどを、如何に。」 「その事だが…。摂政を誰にすべきか、迷っておる。」 そう言って上皇は苦渋の表情をうかべられた。 俊明は一向に意に介さず、 「もちろん元の通り(忠実で)であるべきでございます。」 と、当たり前だといった様子で申し上げた。 それを聞いていた実務を取り仕切る廷臣が声高らかに 「はあ」 と承り、この件は終了してしまった。 俊明は正装である束帯をさやさやと衣ずれの音をさせて席を立ち、その場を後にする。 次に俊明は忠実の元へ参上し、御前に立つと、 「通例の通りに施行せよとのお指図でございました。」 と言い、ずんずんと式事を実行にうつし始めた。 このようにして、摂政は忠実に決定してしまった。 公実が入る余地など全くなく。 すべてはあっという間の出来事であった。 |
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